大判例

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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)1703号・昭44年(ネ)964号 判決

〔証拠〕を総合すると、被控訴人およびその母中沢千代は農地であつた本件土地を地目変更して宅地とした上地上にマーケツトを建築することを企画し、このことについては被控訴人が成年になつたばかりであつたので母千代においてその承諾のもとにこれを代理してその対外交渉に当つていたが昭和三四年中に知事から地目を宅地に変更する許可を得、次いで池ノ内春治を代表取締役とする東日本開発株式会社(以下訴外会社という)に本件土地上のマーケツト建設を請負わせ、この建築資金調達についても本件土地を担保に金融を受けることを右訴外会社に一任し、本件土地登記済証および被控訴人の印影ある白紙委任状、同人の印鑑証明書各三通を右会社代表者池ノ内春治に交付した。池ノ内は翌三六年一月一八日訴外鈴木重成との間に前記訴外会社を代表して「鈴木は右会社に対して本件土地に抵当権を設定することにより金一、八〇〇万円を五回にわけて貸し渡す」旨の契約を締結することに成功し、被控訴人から交付された右の登記済証、印鑑証明書、委任状を右鈴木に交付した。ところが鈴木には資力がなく、約定の第一回期日である同年一月二〇日に貸付予定の金三五〇万円すら支払わず池ノ内の督促に対し同月末日まで待つことおよび委任状が不足である旨を述べたので池ノ内においてさらに被控訴人の委任状を交付したところ同月末に至つても履行がないので、翌二月四日頃訴外会社は鈴木に対して右一月一八日締結の契約解除を通告した上、登記済証、委任状、印鑑証明書の返還を求めた。然るに、鈴木の態度は「あいまい」であつたので右書類の冒用を防止する方法を法務局出張所に間合せなどした結果、同年二月六日中沢千代名義をもつて本件土地につき所有権移転の仮登記をなした上、中沢千代からも同月二〇日頃鈴木に対し「金は借りない」とことわつた。以上の事実が認められる。

〔証拠〕を総合すると以上の説示のとおりであるにも拘らず鈴木は訴外高本照道に対し被控訴人の代理人と称して同月中旬頃高本から金四〇〇万円を三回にわけて借り受けることおよび本件土地を右貸金債務の譲渡担保として高本に所有権移転登記をすることを約し、訴外会社に対しては鈴木から同様金四〇〇万円を三回にわけて貸し渡すことを右会社代表者池ノ内との間において約定の上同月二七日頃金三〇〇万円の領収書を交付して、現実には金二五〇万円を高本から借り受け、そのうち金二〇〇万円を池ノ内に交付した。被控訴人としては鈴木に対し高本から本件土地を担保に金員借用方を委任しその代理権を授与したことはなく(池ノ内および鈴木に対しては被控訴人を代理する中沢千代から既に本件土地を担保に金員を借用することはやめると告げていたこと前示のとおりである。)訴外会社の池ノ内も鈴木に対して被控訴人のため、本件土地を担保に金員借り入れの代理権を与えたことはなかつたこと、前出甲第二号証は鈴木、訴外会社間の右契約を公正証書としたものであるが、被控訴人は右公正証書作成の嘱託には全く関与しなかつたことがそれぞれ認められ、右甲第二号証中被控訴代理人三沢三次郎とあるも同人には代理権限がなかつたものと判断される。なお、当審証人石阪良一の証言によれば本件土地につき被控訴人から高本に所有権移転の登記を申請手続を池ノ内から依頼されたがそのとき被控訴人は池ノ内と同道して来たことを認めることができるが、このとき被控訴人は本件土地についての契約或は登記に関し一言も発言した様子はないことが併せて認められるのであつて、右登記の際に被控訴人が高本と鈴木との間の前示認定にかかる合意を承諾したとか高本と被控訴人間に直接の契約がなされたとの事実を推定することができない。このことは先に認定した事実関係から見ても明らかであり、控訴人と参加人との間においては成立に争なく、被控訴人と参加人との間では右証言によつて真正に成立したものと認められる丁第二ないし第四号証によつては右認定を覆すことはできない。

前出各証人の証言および被控訴人本人尋問の結果のうち以上の認定に牴触する部分はこれを措信し得ない。

右認定のとおりであるから高本から鈴木或は訴外会社が本件土地を譲渡担保として金四〇〇万円(金三〇〇万円の貸借契約はこれを認めるに足りる証拠がない)を被控訴人のため借入を約するにつき代理権を有しなかつたものというべきである。

控訴人は被控訴人の代理人鈴木が無権代理人であつたとしても民法第一一〇条又は第一〇九条により被被訴人は鈴木の行為につき責に任ずべきであると主張するところ、被控訴人が本件土地の地目変更手続をなす権限を鈴木に与えたこと、前示のとおり白紙委任状、印鑑証明書、本件土地登記済証を昭和三六年一月中に鈴木に交付しておいたことは右両当事者間に争がない。そして原審証人鈴木重成、当審証人石阪良一の各証言、成立に争のない甲第一および第八号証の一ないし八、同二六号証の一、二、同第二八号証の一ないし六を総合すれば、鈴木は右白紙委任状、印鑑証明書、登記済証を使用して本件土地につき高本のため別紙登記目録(一)記載の登記を経由するに至つたことが認められ、すでに説示したとおり同年一月中に中沢において聞知していたが高本に対して連絡をとつた形跡はないことが認められ、高本は被控訴人側の事情を知ることがなかつたものと認められる。

したがつて前示の鈴木、高本間の本件土地についての合意につき被控訴人はその責に任ずべきであり、本件土地の所有権は昭和三六年三月二二日譲渡担保(登記上は売買)によつて被控訴人から高本に移転し同日受付をもつてその旨の登記が有効になされたものである。(本件土地の地目はこれより前の同年三月中に宅地に変更された。)

(川添利 荒木 長利)

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